Bansyuu バンシュー

天気の悪い日々が続き、ずっと雨の日々が続いています。
おかげで、冷気が地面の上にまるでたまっているかのように
足下から冷えてくる日々です。

こんな事ばかり、書いていると暗いようですが、気分は上々です。
この晩秋の時期の薄暗く曇った肌寒い秋が、
やがてやってくる冬を予感させてくれるとともに、
植物も動物も全く違う季節へと切り替わっていく様子が、
目には見えないけれど空気に漂っていて、
言葉にしたり、写真では表現できないけれど、
静かに時間が流れていく事を感じさせてくれる。
さて、前にサーモンの骨を撮りに行った湖に
また撮影に出かけました。
今回は、産卵後打ち上げられた鮭の死骸を撮影する事です。
サーモンの旅の重要なパートになります。
彼らの命は終わりますが、そこからまたたくさんの
命へと目には見えない形でつながっていく
スタートにあたる部分です。
秋の雰囲気の漂う
湖への歩きなれたトレイルを、
静かに歩く。

歩いているとトレイルの上にラズベリーアイスクリームが!!

そんなわけない。
クマの糞。
クマの糞はクマをさけて行動する上では一番の目安になる。
なぜなら、雑食でいろいろな物を食べるクマが今このエリアで
何を重点的に食べているかが一目でわかる。
つまり、自分がこれから行く所に糞の中にあったそれらが
あるという事は、クマがその場所を利用する可能性が
高く存在しているという事だ。
さて、このラズベリーアイスクリームはずばり木の実を
食べている頻度が高そう。
しかし、この時期は湖岸に打ち上げられたサーモンの死骸を
食べる事もあるので一応用心はしておく必要があります。

やがて湖岸にたどり着くと落ち葉に混じって
打ち上げられた大量のサーモンの死骸が異臭を放っていた。
この腐敗臭は浜辺に近づく前にすでに森の中まで
匂いが漂っていた。
つまり、クマにとっては刺激的で魅力的な匂いがする
場所でこれから撮影する事になる。
周りの様子に注意しながらも撮影開始。
深紅の体をしていたサーモンはまるで
すべてが抜け去ってしまったかのような
白い色に変わっていた。

その様子に満足しながら撮っていると
子供の集団が・・・・・・

以前にも撮影していると子供が遠足にやって来たが、
今回も当たったようだ。
しかし、今回はアラスカの子供達のタフさをみた。
鮭の腐敗臭で満ちた湖岸でなんのためらいもなく、
ランチを食べ、お菓子を楽しんでいた。
すごいなあ、日本だったら絶対に
子供が引いている状況なのに。
再び撮影に集中して黙々とシャッターを切る。
一息つくと、すかさずヨメが近づいてきて一言。
「さっき怖かったんだけど」
「え、何が?」
「子供が遊ぶ中、一人黙々と鮭の死体の写真を撮りながら
ふっと顔を上げて何も言わずに遠くを見ながら、
にやーっと笑ったんだよね」
「え、そんな事してた?」
「うんしてた、気持ち悪かった」
自分では「いい仕事したなー」
と感慨にふけった覚えはあるけど
にやーっと笑っていたとは。
やがて子供達は引率の大人達につれられて、
引き上げて行った。
そのまま鮭の死骸を撮り続けていると
ふと顔を上げた時に100メートルほど向こうの湖岸を
クマがのそのそ歩いていた。

(写真をクリックすると拡大して見る事が出来ますが、拡大しても
ほとんど判らないかもしれません)
おー、やっぱりいるなあ。
なんとなく来るだろうなと思っていたので、
驚きもしなかった。
なぜならクマの餌場にいるのだから。
視界の開けたオープンな場所で風が強くこちらの様子にも
気づいていない。
この状況下であれば、近づく前に声をかけてクマに気がつかせて
クマが逃げられる選択肢をクマに用意してあげるのが上策。
と、言っても撮影できる状況なので、少しの欲がでて
様子をしっかり見ながらシャッターを切る。

観察していると、まだ打ち上げられたサーモンには手を出さず、
力なく波打ち際を漂っているサーモンを捉えて食べ、のんびりと歩いてくる。
わずかながらもおいしい食事にこだわっているようだ。
このあたりで気をつかせてやれば、こちらもクマが何か行動した時には
余裕を持って対処できるなという距離で
「ヘイ!ベアー!!」
とふたりで大きく手を振りながら、
大声で何度も呼びかけた。
すると気がつかないのかそのまま歩いてきた。
さらに呼びかけ続けると、何かある事に気がついたクマは
立ち上がり、こちらが人間である事に気がつくと
ゆったりと体をひるがえして、森の中に消えた。
自然な状態に生活しているクマの対応だった。
予想していた通りに事が運び、人を避け、
そしてクマは森の中に消えた。

クマが森に消え、サーモンの撮影は満足できる内容だったので、
引き返す事にした。
そのままクマに呼びかけ続けながら、急に遭遇した時のために
クマスプレーは抜いたまま歩いた。
もちろんその後クマと会う事はなく無事、湖を後にした。
その後、アンカレジへ移動。
ちなみに移動中のBGMはフジ子ヘミングの「ラ・カンパネラ」
秋の静かな雰囲気にピアノの音がよく合う。
アラスカのスケールの大きな風景に対してもまったく
違和感の感じないすばらしい演奏だ。

この後数日間はムースの撮影に取りかかります。
問題はフィルムが足りないこと。
残り時間は少ないけれど、1秒でも長くフィールドで過ごし、
シャッターを切る事にこだわりたい。
さーて、困った。

投稿者: WildHarmony

1978年 東京都生まれ 東洋工学専門学校(現 東京環境工科専門学校)にて、フィールドワークの基礎を学ぶ。 北海道・知床、自然トピアしれとこ管理財団(現 知床財団)に通年で2年間ガイドとして勤務。 様々な経験を積み、クマのいるフィールドで行動する技術を学ぶ。 知床のフィールドで、写真で生き物を撮す事の愉しさを知り、 自分を通して自然を写真で表現することの奥深さに触れる。 北の自然へのあこがれに従って、その後アラスカへ渡る。 アラスカの広大な土地を巡る鮭の旅に触れ、 巨大ないのちのサイクルに自分のテーマ「鮭」を見出す。 Kentaro Yasui Born in Tokyo in 1978. Learned the basic skill of fieldwork from Toyo-Kogaku special school. After graduating I worked for Shiretoko foundation in Hokkaido. and guided in Shiretoko National park for many people in two years. Because of my admiration for nature of the north, I went to Alaska to photograph its beauty and wildlife. I mentioned of expressing nature with a photograph through oneself. Currently resident in Japan.

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